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シャワーを浴びながらシャンプーのボトルを見て、ふと「このポンプ、誰が考えたんだろう」と思いました。シャンプーではなく、ポンプのほうです。押すと戻ってきて、毎回ちょうどいい量が出てくる。
あまりに確実に動くので、誰も気にしません。そこで、同じような道具の誕生の話をいくつか調べてみました。どれも、毎日の小さな不便をうまく解決したせいで、その不便そのものが記憶から消えています。これは、私が作っているウェブサイトも含めて、良いデザインを見分けるいちばんの基準だと思っています。
この記事のポイント
- 身近な名発明は、一日に何度も我慢していた小さな不便を取り除いている。
- 当たり前に見えるのは、できあがった後だけ。広まるまでに何十年もかかったものもある。
- うまく動いているときは誰も気づかず、壊れたときだけ気づかれる。
- 良いウェブサイトも同じ。目的をすぐ果たせて、サイトのことを考えずに済む。
シャンプーのポンプが液体せっけんを日常にした
液体せっけん自体は古く、1865年にはウィリアム・シェパードが特許を取っています。それでも100年以上、多くの家庭では固形せっけんが主流でした。濡れて滑りやすく、洗面台を汚しがちなあの固形せっけんです。
変えたのは容器でした。1980年、アメリカ・ミネソタ州のロバート・R・テイラーのミネトンカ社が、プラスチックのボトルとポンプに入ったソフトソープを売り出し、大ヒットします。ポンプ自体は特許が取れなかったため、テイラーは国内に2社しかなかったポンプメーカーから供給を買い占め、しばらく他社がまねできないようにしたと言われています。ブランドは1987年にコルゲート・パーモリーブに売却されました。
人がお金を払ったのは、せっけんではなくポンプでした。片手で、濡れた手でも、毎回同じ量が出る。
ワイパーが雨の日の運転を当たり前にした
初期の自動車では、雨や雪の日は窓から身を乗り出すか、止まって手でガラスを拭くしかありませんでした。1903年、メアリー・アンダーソンが「窓の清掃装置」の特許(米国特許743,801号)を取ります。運転席からレバーで動かす、ゴムのブレードが付いたアームです。
当初、自動車メーカーは関心を示さず、ワイパーが標準になる前に特許は切れてしまいました。その後、ロバート・カーンズが間欠ワイパー(米国特許3,351,836号、1967年)の特許を取ります。小雨のときに多くの人が使う、あの設定です。彼はこの件で何年も自動車メーカーと裁判を続けました。
今のワイパーは、見なくても操作できるレバーひとつ。それこそが狙いです。
ファスナーが「当たり前」になるまで約30年かかった
ホイットコム・ジャドソンは1893年のシカゴ万博で「クラスプ・ロッカー」を発表しました。工夫はあったものの不安定で、ほとんど売れませんでした。同じ会社の技術者ギデオン・サンドバックが1910年代にかけて、かみ合う歯とスライダーという今の形に作り直し、量産するための機械まで作りました。
それでも最初はブーツやたばこ入れが中心でした。1920年代の初め、B・F・グッドリッチ社がゴム長靴に使って「ジッパー」と名付け、その後ようやく服に広がっていきます。
今ではファスナーのない上着は想像しにくいほどです。うまく動くファスナーに感心する人はいません。気づくのは、引っかかったときだけです。
ショッピングカートは、まず人を説得する必要があった
1937年、オクラホマシティでスーパー「ハンプティ・ダンプティ」を経営していたシルヴァン・ゴールドマンは、かごが重くなると客が買い物をやめてしまうことに気づきました。そこで、車輪付きの折りたたみフレームにかごを2つ載せました。
最初、客は使いたがりませんでした。男性は自分で持てると言い、女性はベビーカーはもう十分押したと言ったそうです。ゴールドマンは人を雇って店内でカートを押してもらい、使うのが普通に見えるようにしたと言われています。数年のうちに、カートはどこにでもあるものになりました。
良い解決策でも、最初はひと押しが必要なことがあります。一度使えば、もう元には戻りません。
4つの発明に共通すること
| 発明 | 取り除いた不便 | 誰が・いつ |
|---|---|---|
| ポンプ式ボトル | 滑る固形せっけんと汚れる洗面台 | ミネトンカ社のソフトソープ、1980年 |
| ワイパー | 身を乗り出して雨や雪を払うこと | メアリー・アンダーソン、1903年/間欠機能はロバート・カーンズ、1967年 |
| ファスナー | ずらりと並ぶホックやボタン | ジャドソン、1893年/1910年代にサンドバックが実用化 |
| ショッピングカート | 重いかごで買い物が途中で終わること | シルヴァン・ゴールドマン、1937年 |
年は特許や会社の歴史によるもので、資料によって1〜2年ずれるものもあります。
並べてみると、共通点がはっきりします。
- 頻繁に起きる小さな問題を解決している。年に一度ではなく、一日に何度も起きる問題です。
- 当たり前に見えるのは後になってから。それまでは、みんな不便を我慢していただけでした。
- 考えずにできる、ひとつの動作で済む。押す、倒す、引く、押して進む。
- うまくいっている証拠は「何も言われないこと」。ちゃんと動くファスナーを褒める人はいませんが、引っかかれば誰でも気づきます。
ウェブサイトにも同じ物差しが使える
私の仕事の多くは、小さなお店のウェブサイトやオンライン注文です。最近は、同じ基準で自分の仕事を見るようになりました。サイトにとって最高の褒め言葉は「何も言われないこと」です。お客さんがメニューを見つけて、注文して、そのまま夜を過ごす。
横浜のインド料理店アクバルのオンライン注文を作ったとき、取り除きたかった不便は電話でした。お客さんは電話がつながるのを待ち、注文の聞き間違いが起き、お店では誰かが電話の前にいなければなりませんでした。サイトでは、最初に「デリバリーかテイクアウトか」をひとつだけ聞き、その後に写真付きのメニュー、受け取り時間、支払いと続きます。この流れを褒めるメッセージは来ません。だからこそ、うまく動いているとわかります。
自分のサイトを見直すなら、次の4つでほとんどの問題が見つかります。
- 訪問者の多くは何をしに来るのか。予約、注文、電話、場所の確認。それが最初に目に入りますか。
- 何回タップが必要か。自分のスマホで数えてみてください。余計な一歩は、重いかごと同じです。
- 立ち止まって考えさせる部分はないか。わかりにくいボタン、項目の多すぎるフォーム、PDFのメニュー。
- うまくいかないとき、どうなるか。決済が失敗したときや定休日に、サイトはそれをはっきり伝えていますか。
小さな工夫は、気の利いた発明より長く残る
この4つの発明は、どれも派手ではありません。新しいドアの蝶番を買うために徹夜で並ぶ人はいません。それでも、同じ時代の気の利いたガジェットが忘れられた後も、毎日、何百万人もの時間を静かに節約し続けています。
私が自分の仕事で目指しているのも、それです。毎日の小さな不便をうまく取り除いて、不便があったことすら忘れてもらうこと。そしていつか、誰かがシャワーを浴びながらそれを見て、誰が考えたんだろうと思うのです。
実際のお店でどうなったかは、アクバルの事例で注文の流れを一通り紹介しています。